8人の迷える民間裁判員
イチケイで裁判員裁判が行われることになった。
選ばれた裁判員6名、補欠裁判員2名の計8名が、イチケイメンバーと一緒に事件を審理する。
扱うのは殺人事件だ。
被害者は、東京都世田谷区に住む、桐島優香(八木さお)。
事件は桐島邸で起きた。
桐島邸の3階バルコニーから被害者が転落。
家政婦である高見梓(春木みさよ)が、突き飛ばしたとして逮捕・起訴された。
罰条は殺人。
法廷で、裁判長の入間みちお(竹野内豊)が被告人・高見に問う。
「検察が述べた起訴事実に間違いはありませんか」
「私は殺しては、いません。あれは事故です」
さらに、被害者の娘・希美(松風理咲)が法廷で、被告人の発言を擁護。
心臓をわずらっていた希美は、幼いころから全力で走ったことがなかった。
しかし、11歳のときに心臓移植の手術を受け、中学に上がると走れるようになった。
希美の元気な姿を前に、優香は泣いて喜んだ。
それは、高見にしても同じだった。
優香と高見の2人は、姉と妹のような関係。
自分が幼いころに両親が離婚しているため、希美は父親の顔を知らない。
「でも、高見さんが来てから、もう1人、家族が増えたようで。私にとって高見さんは、おばさんのような存在。私は、高見さんのことを信じています」
かくして、民間の裁判員たちとイチケイメンバーによる審理がはじまる。
イチケイメンバーは、すぐに職権を発動し、裁判所主導による捜査に乗り出す。
希美の記憶に残るのは、涙する2人の女性
書記官の川添博司(中村梅雀)、石倉文太(新田真剣佑)、浜谷澪(桜井ユキ)、一ノ瀬糸子(水谷果穂)らの協力により、事件関係者の接点が浮かび上がった。
話は2016年に、さかのぼる。
今から5年前の5月16日だ。
この日、高見の幼い娘・沙耶が亡くなった。
同日、優香の娘・希美が小児心臓移植手術を受けた。
高見の娘は臓器提供者であり、桐島の娘は臓器移植者だった。
2人はドナーとレシピエントの関係。
互いの素性は明かされないのだが、移植者となった当時11歳の希美が、感謝の思いを新聞に投稿した。
これを読んだ高見が、希美の母・優香に会いに来た。
以来、高見は桐島家の家政婦となる。
希美は、自身の生みの親である優香と、“新しい心臓の生みの親”である高見に育てられたのだった。
「その事実を知っても、驚きはありませんでした」
16歳になった希美は動揺することなく、自分の言葉でしゃべった。
再度、証言台に立つ。
「高見さんは私に、亡くなった娘さんを重ね合わせていたんだと思います。高見さんが黙っていたのは、ドナーとレシピエントの接触が禁じられていることもあると思います。でも、きっと娘さんの身代わりで、私に近づいたと思われたくないからだと思います。私はそれでも、高見さんを家族のように思っています」
被告人席でうつむく高見の目から、大粒の涙がひとしずく、床をめがけてまっすぐに落ちた。
裁判で真相を話すよう求められても、高見は
「話したくない」と黙秘。
複雑な人間関係がすけて見える。
希美は高見から愛情を感じていた。
被告人・高見、被害者の娘・希美、被害者・優香の3人には愛情と信頼があった。
愛情と信頼があって、なぜ事件は起きたのか。
そこには、暗い過去があった。
検察の話によると、話は、桐島優香が転落死をする1か月前にさかのぼる。
助けを呼ぶべきだったか、いなか
1か月前、長野県の山林で身元不明の男性が見つかった。
歯形が一致したことから、その男性は桐島重利と判明。
今回の事件の被害者・桐島優香の元夫であり、希美の父親だ。
重利は失踪していた。
その人物が長野の山林から遺体となって見つかった。
この事実を前に、黙秘していた高見が態度を改める。
「桐島優香さんの思いが、憶測で、ねじまげられたくありません」
そう言って高見は、優香から聞いた話をしゃべりはじめた。
それは、優香が自宅3階のバルコニーから転落した日のことだった。
希美の“もう一人の母親”として聞いてほしいと、優香は話を切り出した。
13年前、世間知らずだった優香は、重利に騙され、2人は結婚した。
お金にだらしなく、知らないところで彼は勝手に借金を重ねた。
金策に困った重利は長野の別荘に幼い希美と優香を誘い、事故に見せかけて殺そうとした。
重利の狙いは優香の遺産だ。
重利は、優香の遺産を一人占めしようとしたのだった。
その計画は失敗。
逃げ出すはずみで優香は、彼を死なせてしまう。
そして、遺体を山林に埋めた。
失踪に見せかけた。
すべては、希美を守るため。
その遺体が身元不明の男性として1月前に発見された。
当時、彼と交際していたクラブのホステスが真相に気づき、優香の元を訪れ、ゆすってきた。
のがれられないと思った優香は、自分の遺産を高見にたくした。
すべてを話した優香は自宅3階の壊れたバルコニーに向かう。
自殺だと疑われないよう、事故を装って身を投げた。
水がはられていないプールの底に転落し、頭から血を流す優香を見て、高見は救急車を呼ぼうとした。
これを瀕死の優香が制す。
消えゆく声で、「希美をお願い、許して」そう言い残した。
遺産だけでなく、高見は優香の願いもたくされた。
そうした真相を高見は、希美に知られたくなったのだという。
人殺しの娘として生きていかねばならないかもしれない。
もう一人の母親として、そう思った。
殺人を否認しながら、黙秘をつづけた高見の真意はそこにあった。
すべては、希美を守るため。
みちおは、法壇から証言台に立つ被告人・高見の前に降りてきた。
「最後にお聞きします。助けを呼ぶべきだったと思いますか。それとも、そのまま死なせてあげてよかったと思いますか」
「わかりません。私は、どうすべきでしたか。教えてください」
裁判員として今回の審理に参加した8名は、それぞれの意見を述べた。
「それでも救急車を呼ぶべきだった」
「自分が同じ立場なら、あなたと同じ行動をとった」
「私にも、わからない」
それは被告人本人が、これから見つけていく作業なのだろうと、みちおはしめくくった。
判決は懲役1年。
裁判が確定した日から3年間、その刑のすべての執行が猶予された。
理由は、被告人の行為が殺人ではなく自殺ほう助と判断されたからだった。
【次回予告】第10回は最終回の前編か? ドラマ・イチケイも大詰め
判決後、裁判所で坂間千鶴(黒木華)が襲われた。
階段から突き飛ばされたのだ。
これをみちおがキャッチ。
身をていして千鶴の転倒を受け止めた。
犯人は、過去に千鶴が裁いた事件の被告人だった。
逆恨み。
同じことが起こるかもしれない。
みちおは心配した。
しかし、千鶴は、気を落とすことはなかった。
そんな彼女をみちおが食事に誘う。
千鶴の妹・絵真(馬場ふみか)は、姉にみちおとの交際をすすめる。
千鶴とみちおの恋の行方はいかに。
ドラマ第10話は最終回へつづく。
来週と再来週の2話で終了か。
キャリア志向の千鶴は、どんな裁判官を目指すのか。
みちおが裁きたい、日本の司法との対決はあるのか。
“ゲツク”らしいラブストーリーは用意されているのか。
ドラマ「イチケイのカラス」第9話 目次
ドラマ「イチケイのカラス」第11話あらすじネタバレ