「真実は何か。見極めて正しい裁判をおこなう。これが最後になろうと、僕はいつも通りにやるよ」
入間みちお(竹野内豊)が弁護士時代の仲間である青山瑞希(板谷由夏)と一緒にいるところを週刊誌にスプープされた。
記事のタイトルはこう。
「ただならぬ関係。裁判官と弁護士の癒着!」
みちおが、少年刑事事件で得た情報を青山にリークし、民事訴訟で青山に多額の利益を受け取るよう画策したという記事だ。
みちおと青山は癒着し、無罪判決を出しているというゴシップ記事になっている。
そんな、デタラメの内容だった。
誰かが悪意を持って、みちおを陥れようとしている。
目的は、裁判から、みちおを排除すること。
地裁の裁判官の任期は十年、みちおは裁判官になって10年を迎えていた。
任期満了後、ほとんどの裁判官は再任されるが、問題のある裁判官は違う。
裁判官の任期がせまるみちお。
職権発動などの、みちおのこれまでの問題行動に、ゴシップ記事がダメ押しとなって再任ははばまれる?
そこでまでして、みちおを排除したいのは、みちおにかかわらせたくない事件があったから。
自転車事故による重過失事件だ。
被告人は大学生、二十歳。
自転車競技部に所属し、大会に向けて、深夜の自主練習していた。
検察によれば、坂道を猛スピードで下っていたところ、左側走行を守らずに家族連れと衝突。
七歳の女の子が意識不明の重体となる。
この事件に、みちおは職権を発動した。
「被告人の主張と違うから」
裁判所主導の捜査のやり直しに踏み切った。
工事用のフェンスで道路の左側がさえぎられており、右側を走るしかなかったというのが被告人の主張。
深夜工事があったという被告人の主張に反し、検察は、「工事の記録が一切ない」。
主張が食い違った。
政治の意向により、自分が裁判官に再任される可能性が低いと知りながら、これをみちおは意に介さない。
「真実は何か。見極めて正しい裁判をおこなう。これが最後になろうと、僕はいつも通りにやるよ」
「万が一、大きな力で真実を捻じ曲げるなら、司法はそれを許さない」
みちおの姿勢に坂間千鶴(黒木華)が共感を示す。
「万が一、大きな力で真実を捻じ曲げるなら、司法はそれを許さない」
みちおから裁判官という役割を奪おうとする、司法のTOP・最高裁事務局の権力に千鶴も真っ向勝負をいどむ。
千鶴は鼻息を荒くして、みちおの案件を手伝った。
手伝って、自転車事故の事件と自身が審理を進めている案件との関連に気づく。
千鶴が担当している事件は、業務上過失致死の事件。
大型複合施設・東京スクランブルシティの建設による地下鉄拡張工事が行われていた。
ここで、労働基準法に反して、深夜の違法工事があったのではという疑いがあった。
工事担当会社は、巨額脱税にかかわっていた鷹和建設。
東京スクランブルシティのプロジェクトリーダーは代議士の安斎高臣(佐々木蔵之介)。
六本木ヒルズをしのぐとされる、日本最大級の大型複合施設建設にまつわる事故の背景には、地盤が軟弱で、計画が大幅に遅れ、工事費がかさんだことが関係していた。
それによって崩落事故が起きたのだ。
多数の作業員がケガをして、鷹和建設の下請けであるイバタ工業の現場監督、本庄昭(大西ユースケ)が事故死した。
死亡により本庄は不起訴。
事故責任の所在は、もう一人の現場監督である、鷹和建設の人事部長・原口秀夫(米村亮太朗)にあるとされた。
しかし、青柳は雲隠れし、行方知れず。
さらに、そもそも、業務上の過失が本当にあったのかどうかも疑われた。
本庄の母親は、会社の命令で納期に間に合わせるため、亡くなった本庄は違法な過重労働をやらせていたと証言。
それが原因で起きた事故だとすると、真相は違ってくるかもしれない。
自転車事故が起きた地点で、深夜の“秘密の地下鉄工事”はあったのか。
巨額脱税をしていた鷹和建設、代議士がからむ事件の闇を暴くため、自転車事故と業務上過失事件の二つを併合審理することになった。
司法はみちおの裁判官再任をはばみ、政治は違法な過重労働の事実を闇にほうむろうとしている。
真実を明らかにするため、みちおは公言した通りに、事実を求めて職権を発動した。
裁判所主導による捜査のやり直しだ。
「いらない、そんな保身。受け取りません」千鶴、イチケイのカラスになる
イバタ工業の作業員が法廷で証言した。
「過重労働はありませんでした」
「コンプライアンスも徹底されていました」
「逆に、残業はするなと言われていました」
「休日出勤はありません」
労働基準監督署に違法労働を訴えるメールが届いていたが、役人の調査結果は、違法労働はないといもの。
鷹和建設の弁護人・関東弁護士会の理事長である江原諭(橋本さとし)は、地下鉄工事の現場作業を担当したイバタ工業のスタッフ20名から証言を聞いた、みちおの裁判のやりかたに異を唱えた。
裁判官の再任が危ういみちおに、これ以上の問題行動を起こさないほうが身のためではないかと圧力もかける。
安斎高臣の秘書・田之上幸三(篠井英介)も 、みちおにプレッシャーを与えた。
「入間さん、あなたの裁判官の任期はあと10日だ。真相解明には時間がない。しかし、事は大事だ。
疑うだけ疑っておいて、何もなかったでは済まされない。
いや、済まさない。
あなたが相手にしているのは、ある意味、国だ。
結果によっては、裁判官再任もありうると思いますよ」
政治、司法の圧力が、みちの両肩にのしかかる。
それだけではない。
みちおが信念を貫くことで、今回は、イチケイメンバーにも影響が及ぶ。
自分以外のイチケイメンバーが、職や立場を追われるかもしれない。
仲間を思う気持ちと、法にウソをつかないという信念で、みちおはジレンマに陥った。
酒を飲み、みちおは、くだをまいた。
これを千鶴が一蹴する。
「正しい裁判をおこなうためなら、どれだけ周囲に迷惑がかかろうがお構いなし。事件関係者のために何があっても真実を持って正しい判断を下す。それが、入間みちお。それに、ずいぶんとなめられたモンですね。覚悟くらい、とっくにできています。いらない、そんな保身。受け取りません。私の発言に意義があるかたは、――。以上、我々の総意です」
イチケイメンバーの心が一つになった。
自転車事故と崩落事故の原因は、違法労働にあった
イチケイの部長・駒沢義男(小日向文世)には気になっていたことがある。
姿をくらましていた、鷹和建設の人事部長・原口なら、違法労働の事実を知っているのではないかという点だ。
書記官の川添博司(中村梅雀)、石倉文太(新田真剣佑)、浜谷澪(桜井ユキ)、一ノ瀬糸子(水谷果穂)が原口の行方を突き止め、「証言をしなくてもよい」ことを条件に、彼を法廷に呼ぶことに成功。
イバタ工業の作業員も全員、傍聴席に座った。
安斎高臣が証言台に立つ。
「私が相手にしているのは個ではなく、国民全員です。冷徹だと思われようが、それが私の使命です」
「私の使命は、真実を知ること。そして、正しい裁判を行うことです」と、いつもの調子のみちお。
もう、仲間の身を案じる保身と、法への自身の信念との間で、ジレンマに揺れるみちおはいない。
「これだけは明言しておきますが、工事を納期に間に合わせるよう指示は出しましたが、「違法労働をやれ」とは言っていない。黙認もしていない。それとも、本当に、違法労働はあったんですか。私も真実が知りたい」
真実にせまるため、みちおは2人目の証人を法廷に呼ぶ。
亡くなった本庄昭の五歳の息子・本庄歩(有山実俊)だ。
五歳の男の子が語ったのは、本庄昭が、違法労働を誰かに訴えた事実だった。
その話を聞いた誰かとは、鷹和建設の人事部長・原口。
五歳の男の子の証言を聞いた原口本人が、傍聴席から名乗り出た。
「労働監督署へ違法労働を訴えたのは私です。亡くなった本庄さんから、直接訴えがあった。違法労働により、予期せぬ自転車事故が起きたと。本庄さんは、業務上の過失など犯していない。過労で事故が起きた。それを社長からの指示で、私が偽装した。これが真実です」
自転車事故、崩落事故の原因は違法労働にあった。
イチケイのカラス、ドラマの続編をにおわせる
鷹和建設が得た巨額脱税などの資金は、安斎高臣の父がかかわる政治団体に流れていたことも発覚。
鷹和建設に事実上の違法労働を指示・隠ぺいしていた人物は秘書の田之上幸三、ということになった。
安斎高臣は自分の秘書を隠れみのに使ったのか、――。
感情をうかがうことができない、表情のない顔で安斎高臣は言う。
「裁くなら、私以外を裁けばいい。入間みちおには、また、いつか会うことになるかもしれない。その時が楽しみです」
裁判は幕を下ろした。
政治の闇を暴いたみちおは、裁判官として再任されなかった。
これに黙っていなかったのが千鶴だ。
最高裁事総長・香田健一郎(石丸謙二郎)の元に一人、乗り込んだ。
「裁判官にとって大事なことはなんだと思いますか。組織運営において赤字を出さないこと。当然大事なことだと思います。それともう一つ、話を聞いて聞いて、悩んで悩んで、一番いい答えを決めること。それも大事なことです。私は入間さんから教わった。お願いします。いま、一度、ご検討を」
そこに、イチケイメンバーが全員、押しかけた。
代表して、駒沢がたんかをきる。
「入間君のクビは妥当か! 」
「異議アリ!! 」
再度、千鶴が訴える。
「香田さん、法曹界は入間みちおを必要としています」
こうして、みちおはクビをまぬがれた。
みちおは熊本に飛ばされた。
だが、裁判官を続けることができる。
イチケイから、みちおはいなくなった。
でも、坂間千鶴がいる。
「私は、イチケイのカラスになります」
「イチケイのカラス」第11あらすじ 目次
「イチケイのカラス」第12話あらすじネタバレ
「イチケイのカラス」第10話あらすじネタバレ
「イチケイのカラス」シリーズ目次