相手の心の声をいちいち言葉にする、残念な中卒イケメン裁判官・入間みちお(竹野内豊)と、物心がつく前に母を亡くし、親の愛情を知らない東大法学部卒の裁判官・坂間千鶴(黒木華)がタッグを組んで審議する今回の事件は、料理研究家の深瀬瑤子(前田敦子)が被告人。
彼女は、一歳半の娘・詩織ちゃんを虐待し、大けがをさせたとして逮捕された。
虐待の内容は、詩織ちゃんの首を激しく揺さぶったこと。
これによる乳幼児ゆさぶられ症候群SBS(shaken baby syndrome)が原因でケガに至ったと診断されている。
育児によるストレスから、被告人の深瀬瑤子は日常的に虐待していた疑いもかけられた。
その経緯や動機を警察が調べ、起訴されたのだ。
被告人の深瀬瑤子を東京地裁は懲役二年六月に処した。傷害罪による有罪判決が下された。これを被告人が控訴。虐待を否認したことで公判は差し戻された。
この差し戻し公判を今回のイチケイメンバーが担当する。
前回に続き、みちおが主任裁判官(裁判長)を務める。
イチケイの部長・駒沢義男(小日向文世)が右陪席(みぎばいせき)、千鶴が左陪席(ひだりばいせき)の裁判官。
3名の裁判官による合議制で審理されることになった。
「慎重に対応しなければならない事件なので、単独ではなく合議で」みちおと千鶴の顔を見て、駒沢が言った。
「ふざけるな、この、タヌキおやじ。いま、そう思ったでしょ? 」と千鶴を茶化す、みちお。
「3秒無言だと心を読むの、やめてもらえますか」とふてくされる千鶴。
「やめてあげて」と千鶴の肩をもつ書記官の石倉文太(新田真剣佑)。
「待ってください。慎重に対応する事件だと、いま、部長はおっしゃったばかり
じゃないですか。
いつも以上に要注意案件なので穏便にお願いします」部長の提案を受け入れたが、納得していない様子の千鶴。
「わかっています」気のない返事のみちお。
それを見た千鶴が一言。「わかってない」
イチケイによる合議制の差し戻し公判がはじまる。
事件のポイントは、虐待orえん罪
第一回差し戻し公判。
被告人の深瀬瑤子が証言台の前に立つ。
「わたしはやってません、わが子に虐待などやっていません」と否認。
傍聴席には、深瀬瑤子の夫、その母親も。
一審で有罪判決を下した香田隆久(馬場徹)裁判官も姿を見せた。
第一回の差し戻し公判のポイントは、SBSの診断の信頼性だった。
深瀬詩織ちゃんの症状をSBSだと診断した専門医の足達克己(金井勇太)医師が証言した。
「10人の専門医がいたら、10人が私の意見が正しいというはずです」これにみちおが反応する。
「じゃあ、10人の専門医を呼んで話を聞きましょう」
第二回差し戻し公判。
証言台の前で10人の医師がSBS以外の可能性がないかを話し合った。
「裁判長、レアケースかもしれませんが、この患者(詩織ちゃん)のケースからして、外傷を負った日から症状が出るまでに3日間程度の幅があったかもしれません」
これを聞いたみちおが職権を発動。
裁判所主導での捜査。
事件当日から三日間、さかのぼって調べると宣言した。
捜査をして、事件当日からさかのぼって三日くらいは、深瀬瑤子が育児によるノイローゼだったこと。その間、夫が勤める社内の託児所に子供を預けたこと。
託児所の保育士が夫の以前の交際相手・小野田祥子(知順)だったことを知る。
別れるときにかなりもめた。
まさかとは思うが、「法廷に小野田さんを呼びましょう」とみちお。
検察の起訴内容に疑いの目を持つことがない千鶴にとって、みちおの言動は理解できないものばかりだった。
さらに、一審で無罪判決を下した香田隆久裁判官から呼び出され、千鶴は圧力をかけられる。
みちおは裁判官でありながら刑事みたいに捜査をする。
検察からすれば、自分たちの仕事のあら探しだ。
香田裁判官からすると、一審で無罪判決を下した自分の面子や立場がない。
香田の父も、みちおを煙たがっている。
そんな香田の父も、千鶴に期待していた。
その期待を千鶴は裏切れない。
期待に応えねばならなかった。
なぜか。
千鶴が応えたいのは祖父母の期待。それを実現させるためには?
物心がつく前に母親を亡くしていた千鶴は、母親の愛情というものをしらない。
父親は仕事で忙しく、かまってくれなかった。
妹と千鶴は祖父母に育てられた。
祖父母は、東大法学部を卒業し、裁判官になったことを誰よりも喜んだ。
もっと喜ばせたい。出世したい。
その願いを実現させるためには、とくに香田裁判官の父の期待に応えることが
大切だった。
なぜなら、香田裁判官の父は、最高裁事務総局・事務総長である香田健一郎だから。
二人を敵に回すような言動をとれば、裁判官としての自分のキャリアに未来はない。
そればかりか、これまでの苦労が水の泡だ。
きっと祖父母を悲しませる。
体裁を捨て、千鶴はみちおに懇願した。
「単独事件に切り替えて私を外してほしい。保身だと軽蔑してくれてよい」
これをみちおは、のらりくらりとやり過ごす。
部長の駒沢には諭される。
「法廷にはさまざまな正義があります。
虐待は許されない。
同時にえん罪も許されない。
私たちはそのなかで最善の答えを導き出さなければならない。
これほど面白い仕事がほかにあるだろかと、私はそう思います」
被告人・深瀬瑤子が拘留されているときの被疑者ノートを読んで、千鶴の心はさらに揺れる。
ノートにはこう書かれていた。
「子供が嫌いならなぜ生んだ。
仕事やりたいなら生まなきゃよかっただろ。
さんざん言われた。夫の母親は私が虐待をしたと思っています。私のことを疑っている。世間では、送検のときに私が笑っていたことを取り上げ、私のことを“鬼女”と
呼んでいる。
違うの。あのとき、誰かの着信音が鳴り、詩織の大好きな曲が聞こえてきたの。
それを歌うと詩織は決まって泣き止んだ。
詩織のことを思って笑みがこぼれただけ。
そう。私は詩織のためにもあきらめない」
「通常なら10分程度ですが、30分ほどかかっていたんです」少しずつ暴かれる真相
第三回、差し戻し公判。
被告人の夫の元交際相手であり、詩織ちゃんの保育士でもあった
小野田祥子が証人として法廷に呼ばれた。
彼女はSNSでなんども被告人の誹謗中傷をあおった。
フラれた腹いせに、詩織ちゃんにケガをさせたのではないか。
「私はやっていない! 虐待なんかやってません! あたしじゃない!! 」
傍聴席に訴える証人・小野田。
疑いの目を向けられ、やっていないことを「やった」といわれる。
それはもしかすると、被告人・深瀬瑤子も同じかもしれない。
みちおが深呼吸を促し、落ち着きを取り戻した小野田は、事件当日のことを
思い出す。
「詩織ちゃんに微熱があり、かかりつけの病院へ、念のために連れていきました。
診察室で仕事の電話が入り、その場を離れました。それで戻ると、まだ診察中で。
少し長かったです」
「長いとは? 」
「通常なら10分程度ですが、30分ほどかかっていたんです」
「その病院と診察した医師の名は?」
「新浦辺総合病院の足達克己先生です」
足達克己医師は、詩織ちゃんをSBSだと診断した専門医。
彼は、事件の三日前にも詩織ちゃんを診ていた。
尋問を拒む足達医師、そう働きかける香田裁判官。
真相に迫るみちおに、事務総局決定でアメリカ出張の通達が来る。
これは、裁判長からみちおを外すための手立てであり、本庁から息がかかった裁判官を派遣し、事件を穏便に収束させようとする工作ともとれる。
いよいよ本丸か。
腹が減っては戦ができぬ。息のあった連係を見せるイチケイメンバー
イチケイメンバーは、書記官・石倉の実家「そば処 いしくら」で作戦会議を開く。
エプロン姿で蕎麦を配膳する石倉以外が、テーブルを囲む。
「坂間(千鶴)さん、抜けるなら、いましかないよ。ここから先、結構な闇を掘り起こすことになるかもしれない」
とろろ蕎麦のとろろを混ぜる、みちお。
千鶴はお茶を飲む手を止め、うつむいた。
「出世につまずくのは受け入れられません。
でも、あたしは裁判官です。
真実から目を背けることは、もっと受け入れられません」
お茶を一口で飲みほし、テーブルに勢いよく湯飲みを置いた。
みちおは、再度、足達医師を病院で所在尋問をすることを提案。
さらに、香田隆久裁判官を法廷に呼ぶと宣言した。
「裁判官を法廷に証人として呼ぶなんて前代未聞です」蕎麦をすする千鶴。
型破りの行動をとるみちおだか、言葉に一切の迷いはない。
「前代未聞、いいじゃないですか」
みちおの背中を押す部長の駒沢。
足達医師の所在尋問のため、みちおたちは病院へ。
すると、足達医師が急きょ、ベルリン出張になったことを知らされる。
だが、今から大急ぎで追いかければ、空港で足達医師を足止めできるかもしれない。
そのためには令状がいる。
イチケイの事務所に戻った書記官の浜谷澪(桜井ユキ)が令状を作成し、押印。
それを持って新人事務次官の一ノ瀬糸子(水谷果穂)が階段を駆け下りる。
一ノ瀬が裁判所の入り口に着くと、石倉と主任書記官の川添博司(中村梅雀)がタクシーに乗って令状を受け取る。みちお、千鶴、駒沢、検事の井出伊織(山崎育三郎)、城島怜治(升毅)と合流し、一台のハイヤーで足達医師を追う。
しかし、渋滞。
車をあきらめ、みちお、千鶴、駒沢が令状をもって側道を走る。駒沢が早々に息を切らし、みちおも離脱。
千鶴が足を止め、両膝に手をついたとき、後ろから検事の井出が猛ダッシュで近づいてくる。
元・甲子園球児。ベスト4。
エースで四番だった井出は足が速い。
千鶴から令状を受け取り、井出は空港へ
向かう。
発着ロビーにたどり着いた井出。
彼は足達医師を捕まえることができたのか。
保身を捨て、真実に向き合う千鶴。
第四回、差し戻し公判。
証人として香田隆久裁判官が法廷に呼ばれた。
みちおが聞く。
「香田裁判官、第一審判決で、
あなたは間違えていませんか?」
「間違えていません」
「わかりました。では、ここでもう一人、証人尋問を行います」
入廷する足達医師。その姿に目を見開き、みちおに向き直る香田裁判官。
「ベルリンにいると思っていましたか?」
微笑むみちお。
証言台の前に立った足達医師は、事件当日から三日前の出来事を話した。
自分の不注意によって、詩織ちゃんが診察台から床に落ちてしまったという事故があったのだ。
足達医師は再尋問から逃げるためにベルリンへ渡ったのではなかった。
いるまは尋ねた。
「あなたがベルリンに行って、一週間で戻ってきた理由をお聞かせください」
「向こうには私の恩師がいる。SBSにおける第一人者です。深瀬詩織ちゃんが落ちてしまった診察台の高さ、救命に運び込まれたときのCT画像などすべてを見てもらい、世界のさまざまな症例と照らし合わせて診察してもらいました。
診断結果は三日前の外傷が原因。詩織ちゃんはSBSではない」
この瞬間、被告人の無罪が証明された。
救われた被告人・深瀬瑤子。
彼女の事件はえん罪だった。
裁判は幕を閉じる。
これに、一審で無罪判決を下した香田裁判官が不満な表情を見せる。
彼は以前、みちおに言った。
「入間(みちお)さん、裁判官にとって一番やってはいけないことはなんだと思いますか。
それは、間違えることです。
人が人を裁く、決して間違ってはいけない。
SBS(幼児揺さぶられ症候群)は、ほとんど起訴されないのが実態。
裁判所がむやみに動けば検察はさらに起訴をためらう。そして虐待は見逃される。
そんなことがあってはいけない。間違えないように、お願いします」
無罪判決を下したみちおたちが、裁判所から引き上げる。
そこに、香田裁判官が拍手しながら姿を現す。
「お見事でした。しかし、君たちは終わりだ。裁判官としての未来はない。私を敵に回した。最初に忠告したはずですよ。わかりやすいサインも出してあげましたよね。
察しろよ!
こっちの要求通り判決を出せばよかったんだ。
お前は、間違えたんだよ」
みちおに迫る香田裁判官。
これに千鶴が立ち向かう。
「憲法第76条。すべて裁判官は、その良心に従い独立して、その職権を行い、その憲法および法律にのみに拘束される。
あなたにとやかく言われる筋合いはありません」
後日、千鶴は、最高裁判所の裁判官である日高亜紀(草刈民代)に報告をする。
居酒屋のカウンター席で隣り合う日高に、千鶴は向き直って言った。
「入間(みちお)さんの処分ですが、必要がないと判断しました。改善すべきところは、私が責任をもって対処します」
「失望させないでね。入間みちおに感化されないように」と、たしなめる日高。
「日高さんが入間さんにこだわるのは、これが原因ですか」資料を手渡す千鶴。
「駒沢部長が30件もの無罪判決を出したというのを聞いて過去の公判を調べてみたんです。
この公判、裁判長は日高さん、右陪席は駒沢部長、そして、弁護人は入間みちお」
「殺人事件の裁判だった。私は有罪判決を下した。
刑務所で被告人は無罪を主張し、自殺を図った。いるまみちおは弁護士を辞めて裁判官になった」
前を向きながら話す日高。
「判決は正しかったんですか?」
日高の横顔に問う千鶴。
日高は感情のうかがえない表情で言った。
「私は間違えていない」
みちお、駒沢、日高がかかわった事件の詳細が気になるところ。
第三話以降、三人の関係は少しずつ明らかになりそうだ。
三人がかかわった事件を千鶴が知ることで、彼女はどう変化するのか、しないのか。
ここは三話以降も見どころの一つといえそう。
見どころといえば、一話と二話を通じて見えてきた傾向が2つある。
二度あることは三度ある? イチケイ2つの見どころ
一つ目は、登場人物が涙するシーンだ。
イチケイの第一話では、被告人の父親の死が、「自殺か事故か」が物語のポイントだった。
被告人の父は、踏切で電車に飛び込んだとされ、検察には自殺として処理された。
これを被告人は否定するが、それを誰も取り合わなかった、みちおを除いて。
そのまま真相を探ることなく自殺として処理されれば、被告人は心に深い傷を負ったまま有罪判決を受ける。
刑期を終えて社会に復帰しても、社会への恨み、つらみから再犯へ発展する危険性が高い。
しかし、事故ならどうか。
被告人が否定するように自殺ではないとしたら。
被告人の有罪判決に変わりはないが、被告人は自分の刑を納得し、受け入れることができるのではないか。
そう考えたみちおは職権を発動し、捜査を繰り返した。
結果、イチケイメンバーは、被告人の父の死が事故であったことを突き止める。
被告人の父は、踏切で自ら電車に飛び込んだのではなかった。
幼い女の子がひかれそうだったところに助けへ入ったのだ。
自殺ではなく、身代わりによる轢死事故。
これを自宅で語ったときの相馬真弓(松本若菜)の涙は、第一話において見逃せない。
シングルマザーの相馬真弓は、2Kの狭いアパートで娘と二人暮らしだった。
奥の部屋でお絵かきをしている娘を背に、みちおたちの所在尋問を正座して受けたシーン。
「あなたはなぜ、被告人の父親が命を落としたのか知っているんですね」
そう聞かれた相馬は、「はい」と答え、真相を語る。
自分の娘の身代わりとなって電車にひかれた男がいたことを「知らない」と言い張り、その事実を話すことを拒み続けた理由をあらいざらい語ったシーンだ。
多くの視聴者とは違ったドラマの楽しみかただとは思うが、あのシーンは見ごたえがあった。
今回の第二話なら、被告人・深瀬瑤子(前田敦子)の涙。
最愛の娘を虐待していないことが証明されたあと、法廷で流した深瀬瑤子の涙も、印象に残る。
二度あることは三度ある。
第三話で涙するのは誰か、そこにも注目したい。
二つ目の傾向は、お笑い芸人の出演。
ドラマでは、型破りな裁判官・みちおのファンが毎回、裁判を傍聴している。
そのファン役として第一話では、お笑い芸人のチョコレートプラネット(長田庄平、松尾駿)が出演していた。
第二話ならミルクボーイ(内海崇、駒場孝)。
二度あることは三度ある。
その役を第三話で誰が務めるか。
ドラマで法壇から傍聴席を見たとき、傍聴席の左端に座る二人組にも着目したい。
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